2020.09.12

住職備忘録

一冊の英和辞書

 今日は午後より机の引き出しを整理していると亡父の使用していた名簿録が出てきた。そしてその下にコンサイス英和辞典が出てきた。

 突然50年程前の思い出が鮮明に蘇ってきました。父は昭和12年頃軍隊に召集され通訳を希望して中国と東南アジアに点々としていたという。最後はベトナムのホーチミン市(サイゴン)郊外のフランス人農園で終戦を迎えたと言う。父の日常の仕事はビルマ独立の親日政治家ご婦人方の通訳を務め、その任を解かれ英軍の捕虜となっていた。サイゴンからバンコク、ラングーンに呼び戻されて軍事裁判の被告人となりその後は通訳として収容所での「猿芝居の軍事裁判」を常々私に語っていたことを思い出しました。

 「わしは場合によってはパリに居を構えロンドンで大きな顔ができたかもしれない」と冗談交じりに思い出を語り何時も見せてくれたのが写真のコンサイス辞典であった。「この辞書はな、上海でコルトの拳銃と交換してもらった辞書」と言っていた。元の辞書の持ち主の名前と父の名前を書いた辞書。

8-4-1946 at Lanegoon Jail  昭和21年8月4日ラングーン刑務所にて T.Yukawa

 表装の包紙は捕虜収容所で仕事上で得られた捕虜特徴を書く用紙という事で、名前以外に「目の色」「髪の色」等を眺めると興味がわく。「わしはな、ビルマの偉い人から『実子になってほしい』と言われたが両親を思うとな」と言っていた。父の葬儀に同じくビルマラングーンから復員した人から弔辞を頂き「実子を望まれ・・」の一文が今でも蘇ってくる。机の中に頭を突っ込むと今度は私が使用してた英和辞典らしきものが出てきた。下の辞書は亡父の命がけの辞書。

下の辞書が受験用辞書で受かりさえすればの辞書もどき。

 

 受験のみに必要な辞書であり例文も出題校も出てくるので合理的ではあるが、それぞれの辞書が生き抜いてきた歴史が違う辞書。机の中を整理するのは断捨離のつもりでしたが、この辞書をどうしようか迷っている。

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